ドクター&ナースのつぶやき
令和8年1月号
看取り期のご夫婦への支援を通じて
若松区医師会訪問看護ステーション
境 亜希子
在宅での看取りでは、病状の変化だけでなく、ご本人とご家族それぞれの「心の時間」に寄り添うことが大切だと感じます。病気を抱えながらも、最期まで「その人らしく」生きるために、日々、ご利用者様との関わりを通し訪問看護師として大切なことを学ばせていただいています。
私は今、あるご夫婦のところに訪問に伺っています。
妻は癌末期と説明を受けており、夫が介護をされています。とても仲良しのご夫婦で、夫は「この先、妻は苦しむのだろうか。痛みは出てくるのか」と心配され、妻は「私が先に逝くことで、夫が1人になることが心配」と、夫を気遣っています。
お互いを想う姿に、長年支えあってきた絆の深さを感じました。
不安や寂しさを言葉として表現されたため、その言葉をケアの入り口としました。
不安な気持ちより、今を大切に穏やかな気持ちで過ごしてもらいたいことを伝え「今の時間をどのように過ごしたいですか?」と、お尋ねすると「一緒に旅行にたくさん行ったのよ」と話してくださいました。家中に旅行で撮った写真が飾られ、アルバムが103冊あるとのことで「死ぬまでに、アルバムを夫と見直したい」という希望を伺うことができました。旅先でのエピソードを語らうお2人は、とても柔らかい表情で、温かい時間がお2人を包み込むようでした。
そして「少し体調の良い時に、近所をドライブして、昨年行った場所に花見に出かけようか」「食事が食べられそうなときは、いつも一緒に行っていたうどん屋さんで、好きなお稲荷さんを食べようか」など、毎日不安と向かい合っていたお2人ですが、外に目を向けることができるようになりました。
人生を振り返ることは、これまでの歩みを肯定することだと思います。
妻は「幸せだった時間をありがとう」と感謝を、夫は「これからも生きていける」という安心を育む時間となっているのではないでしょうか。
看取りの場面では、亡くなる前から始まる“グリーフケア”も大切なケアのひとつです。
家族が後悔を残さず穏やかに最期を迎えることができるよう、静かに見守り、言葉にならない想いを受け止める役割を担っています。
旅立つ方と見送る家族…どちらの心にも寄り添い、最期まで「その人らしく」生きる時間を支えることが、私たち訪問看護師の使命だと思っています。
お2人のアルバムには、2025年秋の思い出としてコスモスや彼岸花を鑑賞した際の写真が増えました。
アルバムを眺める妻の笑顔が、この先のご主人にとって、心の支えとなることを願っています。
