ドクター&ナースのつぶやき
令和6年7月号
多職種連携における訪問看護師の役割
船小屋病院訪問看護ステーション ほたる
管理者 小宮 佳代
こんにちは。当事業所は福岡県南部に位置する、人口34,000人のみやま市にあります。みやま市を中心に、近隣の柳川市や筑後市方面へ、看護師と作業療法士7名で訪問しています。同じ法人である船小屋病院からの依頼から、最近ではクリニックや他院からの依頼も増えてきました。主に精神疾患や認知症の利用者様ですが、高血圧や糖尿病などの内科的疾患、腰や膝の疾患や脳血管疾患の後遺症などによるADL低下、また、家族背景も含めて、それぞれが抱える問題は十人十色です。
今回、多職種連携について私の思いをつぶやいてみようと思います。
私が病棟から訪問看護へ移動してきて2年半が経過しました。最初は利用者様とご家族に顔を覚えていただくこと、自宅へ入れていただくこと、家での生活状況や服薬状況を聴くことで精一杯でした。会話がつながらず、長い沈黙の中、背中は汗びっしょりということもよくありました。そんな訪問を繰り返すうち、少しずつですが利用者様やご家族から不安なこと、困っていることを話して頂くことが増えました。話して頂いて嬉しい反面、当然訪問看護だけでは解決できない問題も多くあります。それぞれの分野のエキスパートへつなげること、調整することも訪問看護の大きな役割と考えるようになり、「つなぐ」という言葉をスタッフ全員で意識し、行動してきました。
「家でのお風呂、足が上がらなくて大変になってきた…」何気ない会話の中からも、困っていることがわかるときが多々あります。入浴の問題だけでも、デイサービスか自宅か、介護保険を利用するのかしないのか、この時点で多職種と連携しないと解決出来ません。ケアマネージャーや主治医と相談します。
「以前、徘徊して保護されたことがあり、自宅での生活が心配」と遠方のご家族の不安を聴いたことがありました。行政、主治医、ご家族、場合によっては警察とも情報を共有し、必要なサービスを検討しました。遠方のご家族とも連絡体制の構築が必要です。
他にも、退院後の利用者様宅へ保健所職員との同行訪問、退院前カンファレンス、担当者会議も大切な情報共有の場です。
そして、老人保健施設や有料老人ホーム、精神科デイケアやグループホーム、就労支援事業所や通所リハビリ、主治医や受診先の外来と普段からも連携を取ることが、速やかなサービス提供につながります。そして訪問看護にとって最も大きな役割りは、他の職種の視点からの意見や考えを聴くことです。
こうして振り返りますと、在宅での生活を支援していくことは、いかに多くの職種が関わり協力しているか、助けられているのかがよくわかります。横のつながりがどんどん広がり、私たち訪問スタッフも、他の職種との連携があるからこそ成り立っている仕事だと日々痛感しています。
思い起こせば、私の在宅看護の原点は高校3年生の時です。看護学校に進学したいと思った夏休み、デイサービスへボランティアへ。そんなある日、看護師さんから「車で患者さんの家を回るけど、ついてくる?」と声かけしていただき、同行することに。30年ほど前の当時は、まだ介護保険制度もなく、訪問看護の制度も今とは違い、あまり知られていない時代でした。
自宅で寝たきりの患者さんのおむつ交換を1軒1軒回ります。そして最後に訪問した高齢のご夫婦の自宅で、まだ18歳の私は大きな衝撃を受けます。玄関まで流れ出ている排泄物、汚染された壁、物であふれた室内、強烈なにおい。部屋の隅に座っているご夫婦。そんな中へ躊躇なく入り、排泄物を片付け、お弁当を買いに行き、笑顔で話をする看護師さん。何もできず立ったままの私。また来てね、と手を振るご夫婦の自宅を出たあと、二人の事を思うと、帰りの車では涙がぽろぽろ出て止まりませんでした。何も出来なかった悔し涙もありました。絶対に看護師になると心に決めた忘れられない出来事でもあります。
もしも今の時代に、このご夫婦と出会っていたら何が出来たでしょうか。きっと、もっと何通りもの支援が考えられたと思います。
医療、介護、福祉の分野はすごいスピードで変化、発展していきます。この流れの中、私たちは今まで以上に柔軟に、臨機応変に対応することが求められています。これからも、訪問看護師としての立ち位置、役割を考えながら地域医療を担う一人、そして事業所として、自宅で不安な日々を過ごす人が一人でも減ることを祈りながら、スタッフと共に訪問へ出かけようと思います。
船小屋病院訪問看護ステーション ほたる
みやま市瀬高町坂田91‐1
(TEL 0944-67-7101/FAX 0944-64-4832)