ドクター&ナースのつぶやき

 令和4年6月号

BCPは人材育成

大牟田医師会訪問看護ステーション 田中 千香

 つぶやき2回目の私。依頼が舞い込みついこの前掲載させてもらったのにまた?と思ったら5年が経過していました。時がたつのは早いと感じました。
 大牟田医師会訪問看護ステーションは保健師1名看護師9名准看護師1名理学療法士2名事務員1名で運営しています。
 在宅で療養する利用者やご家族の生活や生き方、考え方を重視し意向を叶えられるようチームで日々努力しています。

 時代は平成から令和へと変わり、新型コロナウィルスが出現し、毎年のように豪雨災害が発生している今。この時期になると大牟田市では2年前の災害を思い出されます。

 大牟田市は令和2年7月豪雨で河川の溢水や土砂の流出により甚大な被害を受けました。
 7月6日未明から雨が続き土砂降り状態で大雨警報が発令中でしたが16時に大雨特別警報が発令されました。
 事業所の主な被災状況
・道路冠水の為訪問中のスタッフ数人が事業所へ戻れなくなりました。
・大型店舗の駐車場に6時間滞在、移動できたのが21時頃でした。
・高齢認知症宅訪問中、同居家族も被災し帰宅困難となり20時過ぎまで支援を続けました。
・人工呼吸器の患者は近くの河川の氾濫で1m近くまで浸水し不安な状況で一夜を過ごされた。
・人工呼吸器の患児は自宅周囲が浸水し、訪問看護も行けない、避難も出来ず充電のまま集合住宅の4階まで避難しました。
・訪問先から公用車を置き徒歩で帰宅
・市外からの通勤者は帰宅できず事業所に宿泊

 大牟田地区は雨が多く、年に数回大雨が降るという認識がありますが、いざ災害を前に何も出来ない苦い経験をしました。
 鉄砲雨に遭い側溝から勢いよく溢れてきた水に少し驚きましたが、この雨もいずれ止むだろうと安易な気持ちで通常業務をしていました。午後からはあっという間、幹線道路が河川化し、大牟田市街地は通れなくなり生まれて 初めて見た光景が広がりました。
 被災した当日から翌日にかけて職員、利用者、事務所の安全確保を行いました。事業所の親機パソコンを守るだけでも必死でした。

 ライフラインが止まらなかったので、翌日には最低限の業務が行える状態でした。
 当ステーションの課題は公用車でした。6台中4台の公用車は浸水で使用不可、代車サポートがない保険に加入していたので保険内容を見直しと同時に車のリース契約を進めました。リースは手続きから約2か月待ち、途方に暮れていたら、保険会社の担当者より助言を受けて一時的に職員の自家用軽自動車を業務用に契約内容の変更をお願いし保険代の差額分とガソリン代を事業所でリース車が来るまでの2か月間を負担する事にしました。業務が完全に再開できたのは1週間後でした。

 振り返ると、あの時もう少し早く判断をしていたら現場に取り残された職員はいなかったかもしれません。
 結果一番大事な職員の安全確保が出来ませんでしたが、そこに職員がいたから守れた利用者の命もあります。あの経験でどうすれば良かったのか悩みますが、職員も利用者も守れた、被害は最小限で食い止めたとしか言えません。

 この災害の経験でカルテはクラウド化になりました。情報収集が必須で、天気予報は課金アプリ採用、とても便利でリアルタイムに雨雲レーダーを見ています。予報は外れることが多いですが大雨の予報時は公用車を移動しています。訓練と思い継続をしています。
 この過程を振り返るとBPCを行っていたのかな~と思います。
 BCPは文書化するのが困難ですが経験を基に少しずつ進めていきたいと思います。

事業所前です。この後も冠水は続きます。初めてでした。

 大牟田医師会訪問看護ステーションの5年未満の職員が半数を占めています。退職者は5年間で1名です。働き方は様々年齢や意向も受け入れながら、正規職員からパート職員へ、扶養からパート職員へ、パート職員の出産で5月から復帰、30~40歳代のスタッフが多くなりました。この体制を維持していくために人材の育成は必須であると認識しています。

 最近私は定年後の趣味にと一念発起お花を習い始めました。
 体育しか取り柄のなかった私は文科系とは縁もゆかりもありません。教室は1時間ほどですが、正直とても長く感じました。
 お花の基本の説明を受け初めて生けてみました。
 ハサミで花が切れない、生けられない、刺さらない、分からない、恥ずかしい汗は出るし、
 そんな私を先生は温かく見守り、タイミングの良い助言、部分的をほめて頂きました。手直しで少し見映えの良い花を生けることが出来ました。
 忘れないうちに再度生け直し、これが楽しみ最後にお茶を飲みながら反省会。
 お茶の際にも褒めて励ましてもらったので次も頑張ろうと思いました。
 生け花へのドキドキ感の経験は新入職員の育成に似ていると感じました。
 満ち溢れんばかりの希望に訪問看護の戸を叩いてくれた新入社員、始めはきっとお花を習う私のように不安で混乱していると思います。
 効果的な指導方法は花の先生と同じく説明、タイミングの良い助言、適切な修正、再実践、復習、寄り添う姿勢などが訪問看護での人材育成でも共通点が多いではないかと感じました。
 職員が定着しない原因はいろいろ有りますが、受け入れる側も指導内容を考え、話し合い、適切な助言ができるよう根気強い多方面からサポートができるようシステム体制を整えていくべきと考えます。
 私も職員との良好な関係が継続できるよう日々学んでいこうと思いました。

 歳を重ねやっと会話の中で間を取る事と「そうだよね」など同調性のある言葉をかけられるようになりました。以前は、間は置かない「でも」「しかし」で否定専門上司でした。これはハラスメントやアンガーマネジメントも共通するところで、対話するときに一拍置くと、肯定的な言葉が出やすいと思います。
 この一拍を注意するだけで会話のキャッチボールが可能になり職員の多様な思考も共有でき職場環境も良好になった気がします。
 環境に欲を出せば、自分自身を変える、受け入れる度量を大きくなど、さらなる精進が必要と思いました。
全てに良好な関係性は築けませんが、最善を尽くす事を信条に、これからも感謝の気持ちを忘れずに大好きな訪問看護の支援を行っていきたい。

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