ドクター&ナースのつぶやき


                              令和54月号

私の認知症看護のモットー「笑顔を引き出す看護」shigatu4.png

 筑紫医師会立訪問看護ステーション 岩本 知恵美

私は筑紫医師会立訪問看護ステーションに勤務し4年目になります認知症看護認定看護師の岩本と申します。

現在、セカンドキャリアとして念願であった訪問看護に携わることができ、とても嬉しく思っています。「笑顔を引き出す看護」をモットーに利用者さんから「また来てね」と思っていただける心地よいケアを目指し続けています。認知症高齢者の利用者さんとの出会いは、私をワクワクした気持ちにさせてくれますし、何よりもケアを通して更に自分自身の学びにつながっている事を実感しています。

  認知症ケアは、誰でも取り組み始めることができますが、認知症の人にとって本当に心地よいケアに至るのは容易なことではありません。私が受講した認知症認定看護師教育課程の恩師から≪体の状態を看ることができなければ認知症看護を語る事はできない≫という教えは、今日の私のぶれることない認知症看護の礎となっています。認知症という先入観で目の前に起きている現象を捉えると、何でもかんでも認知症の症状にしてしまい、身体の不調や心理的・環境的な要因を見逃してしまう事になるからです。

私は認知症研修会の講師をする時には、アセスメントを行う順番を図1のように伝えています。           ①まず、身体症状に注目していくという事です。

②次に視聴覚機能の低下からくる問題はないのか 

③更に生活背景や性格的な要因、その人を取り巻く背景をみていく

④最後に認知症の中核症状をみる

このような順番でアセスメントを行いケアにつないでいくという事です。

 図1

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 以下の状況をどのように感じますか?

1.Aさんは2階に上がろうとした際に階段を踏み外し転倒しました。危ないので上がれないように階段に柵を設置したいと思います。

2.Bさんは夜に興奮する事が多く眠れていません。眠れる薬が必要です。

  症例1.2共に原因をアセスメントせず、現象だけで対応策を考えていることがわかると思います。是非図1で示した順番でアセスメントをすることで、認知症の方への心地よいケアが増える事を願いたいものです。
そして何より認知症ケアは人間尊重のアプローチであり、その人を尊重した関わりでもあります。

  皆さんは、認知症の人のケアとして提唱されているパーソン・センタード・ケアという言葉を聞いたことがあるかと思います。わかりやすく表現すると「その人の視点や立場に立って理解しながらケアを行う」という考えです。これをもう少し専門的に考えると「その人を取り巻く人々や社会とのかかわりを持ち、人として受け入れられ、尊重されていると本人が実感できるように、共に行って行くケア」だと言えます。

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 私が訪問時に必ず意識して関わっている事の一つに、訪問したらまずご本人に声をかける事です。これを意識して行う事は「その人を尊重する」というケアの入口だと考えています。笑顔で接すれば、相手の方も必ずその人らしい表情を見せてくださいます。
 又、ご家族と同居されている方の場合は特に意識することがあります。ご本人を目の前にしながら、先にご家族に声をかけると、その後にどんなに丁寧な対応をしたとしても、ご本人との良い関係性を作っていくチャンスを逃がす要因になります。このような場面でも、ちょっとした心がけと実行はとても大切なケアである事を体験しています。

その人を尊重したケアの事例を紹介します。
 息子さんと2人暮らしの90歳代のCさん(女性)は、社会的な支援を受けることなく自閉的な生活をされていました。地域包括支援センターからの依頼で体調管理と清潔ケア目的にて訪問開始となりましたが、ケア介入には拒否的な言動がありました。長い間、息子さん以外の他者の出入りがない生活をされてこられたCさんにとっては自然な反応であると推測しました。生活空間は臭気を伴い、手掌や足趾には白癬が広がっている状態で清潔維持が困難な状態であるのは一目瞭然でした。そのような空間で会話には応じてくださるため、何気ない日常の話だけの訪問が続きました。会話時は笑顔を見せ、時折目を細め若い頃の思い出話を、さも昨日の事のように繰り返しされるCさんのペースに合わせていきました。そのような対応が3ヶ月続いた頃の事、トイレに行き戻ってこられる際に、手浴のチャンスと思いさりげなく洗面台に誘導すると応じてくれました。「石鹸で手を洗ってみましょうか」と伝えると自然に応じてくれました。それ以来、訪問時は洗面所で手を洗うという事が定着し、やがて自然にシャワー浴にも応じてくれるようになりました。
 Cさんと同じ空間を共にしCさんが感じるであろう心地よい会話を続けた事が、くつろぎ・安らぎのニーズを満たし、自然と入浴の受け入れにつながったのだと思います。Cさんのペースを大事にしたケアの効果を体験しました。 

私は、認知症高齢者の方の訪問がとても好きです。私自身が目指す自分らしいあり方を探求する事ができる事に感謝し、これからも「笑顔を引き出す看護」をモットーに訪問看護を続けていきたいと考えています。

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