ドクター&ナースのつぶやき
令和3年12月号
新型コロナウイルス感染者への訪問看護の事例及び
法人内のスタッフが陽性と判明した際の対応
楽らくサポートセンター レスピケアナース
管理者・在宅看護専門看護師 山田真理子
電話092-982-0067
FAX092-984-1733
楽らくサポートセンター レスピケアナースは福岡市南区にあり、法人では他に訪問介護事業所、居宅介護支援事業所、療養通所介護事業所を運営しています。当事業所は、重症児数で機能強化型訪問看護ステーションの要件を満たした、利用者140名を超える大規模事業所であり、常勤看護師10名、常勤リハビリ職員6名、常勤事務員2名、パート従業員を含めると30名以上の大所帯です。併設する療養通所介護は、介護保険サービスの一つで、医療的ケアを要し、看護師の観察が必要な方が利用するデイサービスです。訪問看護事業所と一体的にサービス提供が可能なため、利用者の状態を良く知る、馴染みのある看護師からケアを受けられるという安心感があります。また、重症心身障害児を通わせる児童発達支援等とも一体的な運営が可能であり、医療的ケアがあっても赤ちゃんから高齢者までが通える場所であります。レスピケアナースは、2015年12月の設立時よりICT化を図っており、クラウド式のカルテと、スケジューラー兼勤怠管理システムを導入し、直行直帰を基本とした勤務体制を取っております。以前は研修会や事例検討会、委員会活動をスタッフが集合して行っていましたが、それも現在はzoomで実施をしています。元々、電話や医療用SNSを介したコミュニケーションに慣れており、コロナ禍でも比較的スムーズにサービス提供を行ってきました。
それでは、当事業所での新型コロナウイルス感染者への訪問看護の事例をご紹介いたします。まず初めは、感染後のリハビリテーションのために訪問した事例です。新型コロナウイルス感染症による長期人工呼吸管理に伴う廃用性の筋力低下や後遺症による労作時呼吸困難がある利用者に対して、リハビリ職員が訪問看護の一環として行うリハビリテーションを2事例、経験しました。1事例目は令和2年の春頃であり、訪問時は長袖ガウンやゴーグルを装着して行いました。この方は数ヶ月のリハビリ後に仕事復帰ができました。2事例目も自立を目指したリハビリを現在も実施しております。
次に訪問中の利用者がコロナウイルス陽性となり、すぐに入院できる病院がなくケア提供が必要だった事例を紹介します。この方は高齢男性で妻も要介護者であり、デイサービスと訪問介護、訪問看護を組合せてサービスが定期的に入り生活が成り立つという状況でした。訪問介護は当事業所と同一法人の事業所が担当をしていました。利用者は、予防接種2回終了し2週間以上経過していましたが、38℃の発熱がありスクリーニングでPCR検査を実施、翌日に陽性が判明しました。そして、まだ入院先は決まってないが、脱水のため点滴を実施して欲しいと依頼がきたのです。感染予防のためマスクに加え、長袖ガウン、フェイスシールドかゴーグル、手袋を装着、こまめにアルコール消毒をして対応しました。当日は訪問介護も介入しなければならず、同様の対策をしました。対応したスタッフはすべて予防接種2回終了後、2週間以上経過していました。自宅内に長時間滞在せず、バイタル測定後に点滴を開始して退室し、窓の外から見守りました。夕方になって、入院先が決まり、救急搬送しましが、それまでの間も看護師が外で待機し、搬送の援助をしました。ところが夕方になり、訪問したヘルパーより熱が出たと報告が入ったのです。このヘルパーは利用者が発熱する前日に訪問しており、受診し検査をしてもらった結果、「陽性」と判明しました。
その後は、対応に追われました。入院した利用者の妻は、PCR検査は陰性でしたが、認知機能の低下もあり、訪問介護も必要で、かつ症状観察のため訪問看護も必要でした。観察期間中は訪問介護と看護で協力し、生活の維持と症状観察に努めました。陽性が判明したヘルパーが接触した利用者の洗い出しと各所への連絡にも追われました。また、ヘルパーが参加した所内会議の参加メンバーが濃厚接触者に認定されました。この中に訪問看護で実働するスタッフはいませんでした。ヘルパーの陽性が判明したのは週末でしたが、週明けに4つの部門をどう運営するのか、何度も幹部職員でZOOM会議を開き、対策を講じました。元々、通所の消毒を定期的に行っていた業者に社内のすべての部署の消毒を依頼しました。また、全員が抗原検査を実施した上で業務にあたりました。さらに週末の間にPCR検査結果が当日に分かる機関を見つけ、キットを入手し月曜日の朝には4つの部門の常勤スタッフ全員がPCR検査を受け、夕方には全員が陰性であることを確認しました。訪問介護の実働スタッフには濃厚接触者がおり、PCR検査で陰性だったことを説明した上で、訪問するヘルパー自身の観察期間中のサービスを受けるかどうかについては、利用者や家族に選択してもらいました。訪問する際は感染対策を十分に実施しました。陽性となったヘルパーと接触したことで、濃厚接触者に認定された利用者と家族に電話をして説明、時には検査の支援も行いました。当法人は医療的ケアのある小児への訪問看護、訪問介護、通所も実施しており、濃厚接触者には医療的ケア児もおりました。親御さんへの説明時は、ご心配をかけても申し訳ない気持ちでいっぱいでした。医療的ケア児のPCR検査を主治医である訪問診療所の医師が実施してくださった際は、この児に接したスタッフの検査も同時に行ってくださいました。陽性となったヘルパーが接触した利用者やその関係先に連絡する際も、お互い様だと言ってくださる方ばかりでした。コロナハラスメントという言葉も聞きますが、そのようなことはなく、関係者の皆さんの温かさを感じました。最終的には、陽性になった関係者はおらず、ホッと胸をなでおろしました。
当法人では今年の4月より、4つの部門から委員を選出し、感染対策員会を立ち上げております。感染対策については早くから取り組み、1回目の緊急事態宣言の前から丁寧におこなってきました。先に記したように直行直帰を基本とし、スタッフの接触は元々少ない形で運営していましたが、各部屋の人数制限などさらに強化しました。その他には、法人のスタッフ全員が厚生労働省作成の「介護職員にもわかりやすい感染対策」動画を鑑賞、各部署にCO2モニターを設置し換気の状況を確認、定期的な業者による消毒に加えて次亜塩素酸水等を用いた拭き掃除を1日3回実施など、を行っていました。これらに加え今回の経験を活かし、スタッフの陽性が判明した場合のチャートや濃厚接触者の洗い出しシートを作成しました。また、長期的な休業にならず法人全体での売上もキープができ、経営的なマイナスはありませんでした。むしろ売上はコロナ禍でも順調に伸びている状況です。しかし、何かあってからでは遅く、災害や大規模感染症に備えたBCPを具体的にどう動かすか、BCPのマネジメントが重要と考えています。今回の経験は今後のBCP作成とマネジメントに活かせる体験であったと感じております。