ドクター&ナースのつぶやき


令和5年12月号 

  

 医ケア児サポートのための地域での取り組み

筑紫医師会立訪問看護ステーション 

管理者 長尾 靖子 

 

 こんにちは、筑紫医師会立訪問看護ステーションです!

「地域包括ケアシステムの構築に寄与する」と旗揚げして久しくなりますが・・・。

 筑紫医師会立訪問看護ステーションでは、在宅看取りに主眼を置いており、なかなか小児在宅医療への参画ができておりませんでした。そのような中、今年2月末、地元の大学病院退院支援室師長より、『3歳児未満、1型糖尿病、カーボカウントによるインシュリン注射の支援』の相談を受け、LCDE看護師としては放ってはおけない症例と思い、二つ返事で受け入れしました。

患児は、現在1歳児未満の弟がいて、お母さんが育児休暇中。昨年、弟の出生時に短期保育園利用のため健康検査受けたところ、血液検査に異常指摘され、大学病院受診・入院加療中。近日自宅退院し4月から幼稚園入園予定。母親の就業(職場復帰)を見据えて、訪問看護の介入計画依頼。当事業所としては初めての所謂、医ケア児支援への取り組みです。

3歳児、入院治療中、幼稚園入園と環境の変化・初めての集団生活、1型糖尿病、カーボカウントの緻密な管理体制、インシュリン注射の苦痛、両親の人物像・考え・対応は・・・などの不安と懸念がよぎりましたが、何はともあれ訪問依頼を受けたからには受けざるを得ない!何とか前向きに話を進めなければ・・・。

ところが傍から「基本、訪問看護は利用者宅への訪問が原則では???」とストップ意見が出たのです。介護保険上は確かにそうです。しかし少子高齢社会の現況では果たしてそうだろうか?相談元の大学病院連携室師長に尋ねると、医師会の訪問看護STが受け入れ良好だったので安心していたけど・・・との返事。これから不透明なまま話を進ませることもできず・・・。

まず、小児の自宅を訪問し状況確認、次に母親に行政へ支援活用できる仕組みがあるのか相談していただくことからスタートしました。後日母親から「現状では対応できるルールはないと言われた」との情報が届きました。しかし、現状は必要とすることが問題となっているからには、現場から問題提起してもいいのではないのか、と考えました。大学病院医師から診療情報を提示していただき、同時に医師会側からも行政へ相談を持ち掛けました。すると現状を知った行政も受け入れ良く、最初は福祉課で新規仕組みを検討いただき、現在は保育児童課が窓口となって支援を受けています。

今年1月に3歳になった当該幼児・Yちゃんは4月から幼稚園という社会に初めてデビューしました。たくさんのお友達ができ、毎日目新しいことに出会って、刺激的な代えがたい日々がスタートしたのです。しかし、インシュリン注射を一日たりとも欠くことはできません。大人の手を必要とする年代です。母親は乳児を抱え、就業復帰を考えているのです。

今回、太宰府市では太宰府市教育・保育施設等看護師派遣支援事業という新規事業を整備され、医ケア児をもつ働く母親への支援という体制が取れました。実際、令和5年9月1日よりYちゃんの支援が始まり10月には運動会も楽しむことができたようです。

今回の支援導入にあたって、医ケア児サポート体制の重要性を知りました。実際、就学前における医療的ケア児に対する国からの支援は、保育所に限定され、幼稚園に対しては教育支援体制整備事業の看護師の巡回・派遣に限局されている事。 医療的ケア児への幼稚園におけるケアの体制確保が困難な状況にある事。平成17年の徳島地裁の裁判例では医療的ケア児への就学許可を義務づける判決が出ていること。障害者差別解消法の観点から、義務教育ではないが義務教育と同等の教育を実施している幼稚園における医療的ケア児の教育を受ける権利を保障するためにも、医療保険の訪問看護ステーションの利用を居宅に限定する形ではなく、主治医が日常生活において医療的ケアが必要と認めて、主治医の訪問看護指示書が作成される場合は、幼稚園にも拡充を認められないと、医療的ケア児が保護者の付き添いがなく幼稚園に通園することが困難である等が問われていること・・など。以上は氷山の一角でしょう。

Yちゃんの住む太宰府市が、市民の声を聞き入れ、早期にシステム作りに着手された事は日頃から≪地域包括ケアシステムの構築に注力されている行政の証≫だと思いました。だからこそ≪私達訪問看護師からの提言は重要≫ということを確信しました。

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母親、幼稚園々長の了解を得て掲載しています。

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