ドクター&ナースのつぶやき

令和4年10月号

訪問看護制度創設30年を迎えて
〜今後の在宅医療、訪問看護の在り方に思う〜

嘉武医院 原田 嘉和

 先ずは、我が国の在宅医療の歴史を簡単に振り返ってみます。

 1960年代のまだまだ豊かでなかった時代までは、感染症や脳卒中などの急性疾患に関して医師が往診することで対応されていました。

 1970年〜1990年ごろには脳卒中・心臓病・癌が死因トップ3になり、入院治療を中心に高度医療が進みます。また在宅医療を希望する方の多くは、最後は自宅で過ごしたいと希望される方が増えてきた時代だと思います。(1982年:老人保健法の制定)

 1990年以降は高度医療の進歩とともに平均寿命が伸びてきたことにより、死因3大疾患に加え介護保険を併用した在宅医療が行われるようになります。(1991年:指定老人訪問看護制度が創設、1992年4月:訪問看護ステーションの訪問看護が開始、1994年:全年齢在宅療養者への訪問看護可能へ、2000年:介護保険法の実施)

 現在、在宅医療を受けている患者の大半は、75歳以上の後期高齢者ですが、小児や成人についても一定数の方々が年々増加傾向にあります。さらに我が国は超高齢化社会となり、QOLの概念が一般的になったことで、入院医療から在宅医療への割合が急増しています。このことからも、医療の進歩により一般医療(外来・入院)と在宅医療の内容に大きな違いが進んできたことがわかります。

 さて、今後の未来について考えると、少子化による人口減少が進んでいきます。ただ単に高齢者が増えるだけであれば、新たに病院や介護施設を多く作り、これまでの医療介護制度を続けていても問題ないように思われます。しかし、支える側である若い世代の社会保障の負担は増え、また無限に医療・介護施設を新たに増設しても、高齢者の増加は中長期的にみると一時的であり、2045年頃からは高齢者数も減少に転じると予想されていますので、その先の数十年後にはそれらを利用する人が減少することになります。そのため、地域医療構想といわれる病院等の全体数と役割を調整しながら、在宅医療の整備を進めることで効率的な医療体制を構築することが重要と考えられ、病床数を調整し、急性期病院の在院日数を短くし、通院(外来)や在宅医療でフォローアップする方針での政策が進められています。急性期病院の在院日数を短くすることで、今後の在宅医療・介護は重症者やターミナルケアの役割を期待されており、さらに利用者が安心して自宅等で療養するには24時間体制で高度な対応をすることが求められてきます。24時間体制をとるためには、多くの看護職員数が必要になり、訪問看護ステーションの大規模化が進められています。このような体制をとっている訪問看護ステーションは、「機能強化型訪問看護ステーション」として、診療報酬で更なる評価がされていますが、まだまだ十分な状況とは言えません。訪問看護師数も僅かな増加傾向を認めていますが、訪問看護ステーションに従事する看護職員数は現在約 5万人です。 我が国では2020年時点で自宅で死亡する方の割合は全国平均で約15%でしたが、オランダ(31%)やスエーデン(51%)の約30%以上まで引き上げるとすると、曖昧な計算ではありますが2倍の約10万人以上の訪問看護師が必要になります。これは可能なことなのでしょうか。今年度の九州地区医師会立共同利用施設連絡協議会でも、訪問看護師の人材不足が大きな議題になっていました。また最近では、診療所ではなく病院が在宅診療科や訪問看護ステーションを併設する傾向が増えています。急性期後の一連の医療経過に携わることができ、急変時の対応もスムーズになることから、在宅医療を受けられる方にはメリットがあると思われます。ただし、在宅医療に関しては現在の病診連携のシステムが、今後少なからず変化する要因になるかもしれません。同時に地域医療構想では医療従事者の偏在に関しても調整が加味されてくるでしょう。

 今回、在宅医療・訪問看護の在り方を考えさせて頂いたことで、地域医療構想を中心に大きな医療の変革期に入ろうとしていることが、さらに浮かび上がってきた次第です。今後も在宅療養の方々が求めるQOLの向上をサポートし続けるためにも、在宅医療に携わる多職種の知恵を結集し、これから訪れる大きな障壁を乗り越えていかなければならないと感じています。

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