ドクター&ナースのつぶやき
平成30年5月号
『レゴ ブロック』を使いながら楽しく学ぶワークショップ 〜LEGOワークショップ〜
今立内科クリニック
今立 俊輔 |
今立内科クリニックは久留米市にある町の診療所である。2年前に医師3人体制になった事をきっかけに在宅医療にも関わらせていただくようになり、ご近所の訪問看護ステーションさんにご協力いただきながら、地域の中で最期まで患者さんに関わらせてもらっている。
そんな看護ステーションさんとのご縁もあって、今回の原稿を書かせていだだく機会を頂いた。
さてさて、一体何を書いたものか。
そもそも普通に「ですます調」で書くべき原稿だったのではないかと、ここまでの文章を少し後悔しながら筆を進めているのだが、今回は私たちのクリニックで取り組んでいることについて紹介したいと思う。
実は、今立内科クリニックは医学教育にも積極的に関わらせてもらっている。そして、実習に来てくれた医学生たちにレゴブロックを使った、ちょっとユニークな学習評価を行なっているのだが、その「LEGOワークショップ」について、少し小話を書いてみる。たわいもない読み物だが、最後までお付き合いいただければ幸いである。
「今立くん、学生がワクワクするようなワークショップを考えてくれない?」。
長年お世話になっている先輩ドクターのN先生から声をかけられた。
聞けば、九州中から医学科、看護科、社会福祉学、薬学部など90名の学生がやってくるのでそこで目新しいワークショップをやれないかという話だった。
N先生とは研修医の頃に知り合い、今は大学で地域医療を担当されている先生だ。わたしが離島医療に従事していた事もあって、ちょくちょくN先生のセミナーに呼ばれては学生に話をさせてもらっているが、実はN先生が私によく言うセリフがある。それは、困った時の神頼みならぬ「困った時の今立頼み」。
嫌な予感がしながら、
「で、N先生それはいつですか?」と聞くと、
「ん〜、実は1週間後‥(てへペロ)」
医療業界あるある案件で言うところの「先輩医者からの絶対断れない無茶振り」というやつだ。言うまでもなく、私は学生90名相手のワークショップを引き受けることになった。その1週間後、ある手法で90人を相手に目新しいワークショプを行い、無事この苦難を乗り越えるのだが、これが「LEGOワークショップ」が生まれるきっかけだった。
ところで、皆さんは、こんな経験はないだろうか?
「同じコトについて話し合っているのに、話が噛み合わない」
「地域包括ケア」や「地域医療」というワードで、特にそんな事が起こりやすいように感じる。「地域」という言葉は小学生でも知っているような言葉だが、この理解はとてもむずかしい。人によって「地域」の理解が異なるからである。地域を「自分がすむ街」とする事もできるし、「へき地や離島」と設定する事もできる。住む場所や立場が違えば見える地域の風景も異なる。「病院医師」と「町医者」では地域の捉え方はおそらく違うだろう。
互いの理解を確認しないままに話し合う事で議論が空中戦になってしまい、その結果、話が噛み合わずモヤモヤして終わってしまう。これまた医療業界あるある風物詩の一つのように思う。
LEGOワークショップはそんな問題を簡単に乗り越えてしまう優れものである。手法は簡単。『あなたの頭に思い浮かんだ「地域包括ケア」をブロックで作ってください。その上でディスカッションしましょう。』と言えばよい。目に見える形で話し合い、お互いの「理解の違い」を「理解」しようというものである。
さて、先ほどの学生ワークショップの話に戻る。
結局私は何をしたかというと、yahooオークションで大量のジャンク商品のレゴブロックを購入。会場に持ち込み、「多職種連携」を「多職種の学生」に作らせたのだ。医学、看護、薬学、福祉それぞれの専門性で全く違うプロダクトが出来上がり、それを題材にディスカッションさせ、協働して作品を作り上げてもらった。結果は盛況だった。
レゴブロックはなかなか良い。見た目にも楽しく、初めての人でも案外簡単に作れる。何より自分の考えをわざわざ言語化する事なく、イメージをそのまま他人と共有できる点は素晴らしい。口下手な人も口達者な人に負ける事なく議論に参加できる。
最近は今立内科クリニックに在宅医療実習にきた医学生に対して、実習前後で作品を作ってもらい、何を学んだかを実感してもらう学習評価にも用いている。
学生の反応は様々だが、彼らが地域の中で何を感じたかが見えてくるので、指導医としてはとても面白く感じている。
もし、ご自宅に眠っている子供が使い古したレゴブロックが眠っているようであれば、皆さんの職場に持ち寄ってお試しされてみてはいかがだろうか?
レゴブロックが用意できないが何としてでもやってみたいという方は、N先生のよう「困った時の今立頼み」で、思い切って今立内科に連絡してみるのも一手かもしれない。
もしかしたら、大量のレゴブロックを脇に携えた私があなたの元へ馳せ参じる? かもしれない(笑)